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札幌家庭裁判所小樽支部 昭和58年(少)684号 決定

少年 C・M(昭四二・八・二三生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は

第一  A及びB(いずれも当一五年)と共謀のうえ、在学中の小樽市立○○中学校内で行われたトランプ賭博の負金を支払つている同級生C(当一五年)から金員を喝取しようと企て、昭和五七年一二月二〇日頃の午後零時四五分頃、同市○○×丁目××番×号所在同中学校三年一組前廊下において、同人に対し、少年及びAにおいて、「お前、マッチャキばかり金やつて俺らによこせ」などと申し向け、更にCを取り囲んだうえ、少年においてCの首付近を二回足蹴にし、AにおいてCの頭部を手拳で数回殴打し、BにおいてCに対し「三人分三万円持つて来い」などと申し向けて、金員の交付方を要求し、もしこの要求に応じない時は、同人の身体等に今後いかなる危害を更に加え兼ねない気勢を示して、同人を畏怖させたが、同人がこれに応じなかつたため、その目的を遂げなかつた

第二  公安委員会の運転免許を受けないで、昭和五八年八月二五日午後二時五七分頃、同市○○×丁目×番付近道路において、第一種原動機付自転車(小樽市あ××××号)を運転した

第三  D(当一六年)及びE(当一四年)と共謀のうえ、同年一〇月一五日午後九時二〇分頃、同市○○×丁目××番○○工業株式会社工場内において、同社代表取締役F子管理に係るシンナー四リットル(時価二〇〇〇円相当)を窃取した

第四  同月一六日午後四時一〇分頃、同市○○×丁目×番○○公園内顕誠塔裏側において、興奮・幻覚又は麻酔の作用を有する劇物であるトルエンを含有するシンナーをみだりに吸入した

ものである。

(適用法条)

第一の事実について 刑法六〇条・二五〇条・二四九条一項

第二の事実について 道路交通法一一八条一項一号・六四条

第三の事実について 刑法六〇条・二三五条

第四の事実について 毒物及び劇物取締法二四条の三・三条の三

(虞犯と本件各非行との関係)

少年は、昭和五七年一一月一〇日、札幌保護観察所長○○○の犯罪者予防更生法四二条一項の規定に基づく通告により、同日、札幌家庭裁判所に事件係属となり、同月一五日、同裁判所から当庁に回付され、当庁に事件係属となつた(同年((少))第五四一号虞犯保護事件)が、同通告の理由は、

「少年は、昭和五七年二月一〇日以降、札幌保護観察所の保護観察下にあるところ

(1)  同年一〇月一三日、同月一六日及び同年一一月一四日、自宅において、シンナー等を吸入したほか、保護者の指導・監護に従わず、常習的にシンナー等を吸入していると認められ、自己の徳性を害する行為を反復し

(2)  保護観察開始当初から保護者の指導・監護に従わず、自宅において、飲酒を繰り返し、自己の徳性を害する行為を反復し

(3)  G(一五歳)等非行・犯罪傾向のある少年を保護者に隠れて、自宅に外泊させる等、自己又は他人の徳性を害する行為を反復し

(4)  小樽市立○○中学校三学年に在学中の者であるが、二学期に入つてから怠学を繰り返し、保護者の正当な監督に服さず、昭和五七年一〇月二〇日頃から、現在迄、長期間に亘り欠席している者であり

少年の性格及び環境並びに保護観察の経過等に照らして、近い将来罪を犯す虞れが濃厚である」

というもの(以下「本件虞犯事実」という)である。

ところで、一般に虞犯は犯罪に対して補充的地位にあり、犯罪に至る前段として把握されるから、一定の虞犯事実の後にその虞犯事実から予測される犯罪行為がなされた場合には虞犯性が現実化して犯罪行為となつたものとして、虞犯事実は犯罪行為に吸収され、虞犯事実は犯罪行為の情状として考慮されるに過ぎないと言うべきである。

これを本件についてみるに、本件通告において通告者が少年の問題行動として指摘する少年の将来犯す虞れのある犯罪は、少なくともシンナー吸入が主要なものであると言え、本件第四の非行はまさにそのシンナー吸入事実であり、しかもこれを除くその余の本件各非行も、いずれも本件虞犯事実から予測され得る犯罪行為と言えるので、本件虞犯事実は本件各非行の情状(要保護性に関する事実)として考慮した方が妥当であると思料する。

以上の次第であるから、本件虞犯事実を敢て非行事実として摘示しないこととする。

(処遇の理由)

少年は、昭和五七年二月一〇日、当庁において、窃盗・同未遂保護事件により、札幌保護観察所の保護観察に付する旨の保護処分を受けたが、ボンド吸入・飲酒・喫煙・外泊等を繰り返し、上掲のとおり、同年一一月一〇日、同保護観察所長より、本件虞犯事実について、通告がなされ(本件虞犯事実は一件記録よりこれを認めることができる)、同日、観護措置が措られたうえ、同年一二月三日、当庁において、担当調査官の試験観察に付されたが、その直後に本件第一の非行を犯し、その後もその非行傾向が当裁判所に顕著なG(昭和四二年七月五日生。昭和五八年四月一二日、当庁において、中等少年院に送致する旨の保護処分を受けた)・H(昭和四三年五月二七日生。昭和五八年三月二二日、当庁において初等少年院に送致する旨の保護処分を受けた)らと親交を深め、同人らを自宅に泊めたり、同人らと一緒になつて、或いは単独で、シンナー吸入を繰り返し、一向にその行状は改まらず、本件第二ないし第四の各非行に及んだものである(なお、少年は試験観察中に、本件第一の非行やシンナー吸入等の非行行為について、担当調査官から第一の非行についての事件受理前に質問された際、こと更これらを否認する態度に出ている)。

ところで、少年は、準普通域の知能(I・Q=八一。これがため、特に日常生活に支障を来している訳ではない)で、単純・短絡的な思考傾向が強く、思索・内省傾向を欠如し、意志薄弱で持続力・感情統制力に乏しく、横着・怠惰・注意力散漫・付和雷同的で、困難な場面に遭遇すると安易な方向に自己を堕す傾向が顕著であるなど、性格面・行動面の問題点が指摘されている。

そして、少年の保護環境の現状を検討すると、少年の父は、少年を含む子供四名(なお、長姉は間もなく他男と結婚する予定である)に対し、無関心でおよそ父親らしい態度で接したことはなく、しかも勤労意欲を欠如し、家庭を省りみることなく勝手気ままに遊び歩くなどし、少年らに対する監護・養育について、その意欲・能力を全く喪失している状態であり、現在、一歳年上の兄・Iは中等少年院・北海少年院に、二歳年下の弟・Jは教護院・大沼学園にそれぞれ在院中であり、少年の家庭は所謂崩壊家庭と言える程で、母は少年らの監護・養育にほとほと疲れているようで、少年の処遇について、担当調査官に少年院に収容することを望む旨吐露するに至つて居り、実際、母一人の力で少年を十分監護・養育することは至難の技であると思料される。

従つて、事件記録に顕われた本件各非行に至る経緯・非行の動機・態様等に加えて、上記認定の少年の非行歴・資質・性向上の問題点を併せ勘案すると、少年の非行傾向は相当に定着するに至つて居ると言わざるを得ず、これに上記認定の保護環境の現状を鑑みると、少年の要保護性は高いと言え、このままでは少年が再非行に陥る危険性は極めて大きく、少年の非行性を矯正するためには、最早在宅保護の方法によつてその成長を期待することが困難であると思料され、担当調査官○○○の意見どおり、少年を収容保護することとした次第である。

よつて、少年法二四条一項三号・少年審判規則三七条一項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 加登屋健治)

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